花は本当に美しいものですが、花を手向ける人の心は、花よりも美しいと思います。
病院の霊安室でのことです。渾身の治療の甲斐もなく、物言わぬ人となった患者さんに、主治医の先生、看護婦さん、事務長さんが深々と合掌をしていかれました。ご遺族はお疲れからか別室へ下がられ、しばらく私とご遺体だけの場となってしまいました。静かというよりは、ひっそりとした沈黙のひと時でした。
私はご遺族をおうちまでお送りする役目でやって来た葬儀社の人間で、しかもまだ二十代半ば。この仕事に就いて日も浅い頃だったのです。
ここに横たわる人の人生の来し方に思いを巡らせることもなく、ご家族には型通りのお悔やみを述べただけで、早くこの仕事を終えて外に出たい。そんなことばかりを考えていました。 |